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神戸地方裁判所 昭和61年(ワ)1510号 判決

甲事件原告(丙事件被告)

株式会社神陵文庫

乙事件原告(丙事件被告)

大谷保

ほか一名

甲事件・乙事件被告(丙事件原告)

許龍亀

主文

一  別紙第二事故目録記載の交通事故による甲事件原告の甲事件被告に対する損害賠償債務は、金二九七万三九四九円を超えては存在しないことを確認する。

二  別紙第一事故目録記載の交通事故による乙事件原告ら各自の乙事件被告に対する損害賠償債務は、金一五〇万一七八八円を超えては存在しないことを確認する。

三  丙事件被告株式会社神陵文庫は、丙事件原告に対し、金二九七万三九四九円とこれに対する昭和六一年七月三〇日から支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。

四  丙事件被告大谷保、同大谷武は、各自、丙事件原告に対し、金一五〇万一七八八円とこれに対する昭和六一年五月三日から支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。

五  甲事件原告、乙事件原告ら及び丙事件原告のその余の甲事件、乙事件及び丙事件の各請求をそれぞれ棄却する。

六  訴訟費用は、甲・乙・丙事件を通じこれを五分し、その一を丙事件原告(甲・乙事件被告)の、その二を甲事件原告(丙事件被告)の、その二を乙事件原告ら(丙事件被告ら)の負担とする。

七  この判決は、第三、第四項に限り、仮に執行することができる。

事実

第一当事者の求める裁判

Ⅰ  甲事件について

一  原告(請求の趣旨)

1 別紙第二事故目録記載の交通事故による原告の被告に対する損害賠償債務は存在しないことを確認する。

2 訴訟費用は被告の負担とする。

二  被告(請求の趣旨に対する答弁)

1 原告の請求を棄却する。

2 訴訟費用は原告の負担とする。

Ⅱ  乙事件について

一  原告ら(請求の趣旨)

1 別紙第一事故目録記載の交通事故による原告らの被告に対する損害賠償債務は金五〇万円を超えては存在しないことを確認する。

2 訴訟費用は被告の負担とする。

二  被告(請求の趣旨に対する答弁)

1 原告らの請求を棄却する。

2 訴訟費用は原告らの負担とする。

Ⅲ  丙事件について

一  原告(請求の趣旨)

1 被告大谷保、同大谷武は、各自、原告に対し、金一四九万九八九三円とこれに対する昭和六一年五月三日から支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。

2 被告ら三名は、各自、原告に対し、金四六六万四二三一円と内金四二六万四二三一円に対する昭和六一年七月三〇日から、内金四〇万円に対する本判決言渡しの日の翌日から支払ずみまで年五分の割合による各金員を支払え。

3 訴訟費用は被告らの負担とする。

二  被告ら(請求の趣旨に対する答弁)

1 原告の請求を棄却する。

2 訴訟費用は原告の負担とする。

第二当事者の主張

Ⅰ  甲事件及び乙事件について

一  原告ら(請求原因)

1 甲事件原告

(一) 別紙第二事故目録記載の交通事故(以下「第二事故」という。)が発生した。

(二) 大川は原告の従業員であり、その業務に従事中第二事故を発生せしめたものであるから、第二事故により被告に損害が生じた場合には、甲事件原告は右損害を賠償する責任がある。

第二事故発生時には、被告は警察への届出も必要ないとして立ち去り、右事故は、衝突時大川車両はほとんど停止する寸前であつたため、双方車両には肉眼で判別しうる損傷は存せず、衝撃も感じないほどの軽微な事故であつたにも拘わらず、被告は甲事件原告に対し、数日後、損傷のあつたはずのないバンパーの取替えの費用を求め、昭和六一年九月一一日に検察庁における取調予定が入るとその前日の一〇日に東本病院に入院するなど、被告の行動は不審を極めており、他方、右事故状況からして被告に傷害が発生することはありえない。

よつて、甲事件原告は被告に対し、請求の趣旨記載のとおりの債務不存在確認を求める。

2 乙事件原告ら

(一) 別紙第一事故目録記載の交通事故(以下「第一事故」という。)が発生した。

(二) 被告は、第一事故により頸部捻挫・頭部外傷Ⅰ型の傷害を受けたとして、昭和六一年五月三日から七月三〇日までの間(入院二八日、実通院日数四九日)東本病院で治療を受けた。

(三) 昭和六一年七月三〇日第二事故が発生した。

(四) 乙事件原告らは被告に対し、第一事故による損害金として、金一八六万五八〇〇円(治療費七一万五八〇〇円、休業補償金一一五万円)を支払つた。

第一事故による損害金は右既払金を除くと金五〇万円を上回ることはないから、乙事件原告らは被告に対し、請求の趣旨記載のとおり、債務不存在確認を求める。

二  被告(請求原因に対する認否)

請求原因事実はすべて認める。

三  被告(抗弁)

1 第一事故及び第二事故が発生した。

2 責任原因

(一) 原告武には、大谷車両の運転者として前方注視義務違反の過失があつたから、民法七〇九条により、原告保は大谷車両の保有者として自賠法三条により、それぞれ第一事故に基づく被告の損害を賠償する責任がある。

(二) 原告株式会社神陵文庫(以下「原告会社」という。)の従業員である大川は、その業務に従事中前方注視義務違反の過失により第二事故を起こしたものであり、原告会社は大川車両の保有者であるから、原告会社は民法七一五条、自賠法三条により、第二事故に基づく被告の損害を賠償する責任がある。

3 受傷・治療経過並びに後遺症

(一) 被告は、第一事故により、頭部外傷Ⅰ型、頸部挫傷の傷害を負い、昭和六一年五月四日から同月三一日まで二八日間東本病院に入院し、同年六月一日から同年七月三〇日まで同病院に通院して治療を受けた。

(二) 被告は、右傷害が軽快に向かつていた昭和六一年七月三〇日第二事故に遭遇し、ために右第一・第二事故により、外傷性頸部症候群の傷害を負い、昭和六一年七月三一日から同年九月六日まで東本病院に通院し、同月七日から同年一一月八日まで六三日間同病院に入院し、さらに同月九日から昭和六二年一月九日まで同病院に通院(実通院日数五〇日)して治療を受けた。

(三) 右傷害は、昭和六二年六月一一日、自覚症状として「長時間手作業を行うと右後頭部ないし右後頸部痛が、過労時には頸部運動時吐気が出現する。」、検査所見・他覚症状として「握力は右四〇、左四八で、被告が右利きであることを考えると、やや右の握力が低下している。右上肢荷重時、右僧帽筋に牽引痛が出現する。頸椎の左屈三〇度で若干運動障害がある。」旨の後遺症(自賠法施行令別表第一四級一〇号相当)を残して症状固定した。

4 損害

(一) 治療費

被告は、第一事故による傷害の治療のため、昭和六一年七月三〇日までの治療費として金七一万五八〇〇円、第一・第二事故による傷害の治療のため、同月三一日から昭和六二年一月九日までの治療費として金一五四万四四七五円をそれぞれ要した。

(二) 休業損害

被告は、晃晟裁断所の屋号で靴材料の裁断業を営んでいた者であるが、第一事故前四か月間の売上は別紙「事故前四ケ月間の売上」記載のとおりで、その平均月間売上高は約一三〇万円であつた。そして、第一、第二事故により、被告は昭和六一年五月三日から同年一一月八日まで稼働できなかつたところ、その間従業員を増員して事故前の売上を維持しようとしたが、別紙休業損害明細書記載のとおり売上が減少した。

右のとおり、昭和六一年五月三日から同年七月三〇日までの休業損害は、金二一四万九八九三円、同月三一日から同年一一月八日までのそれは金九一万九七五六円となる。

(三) 慰謝料

第二事故までのそれとして、金五〇万円、後遺症に基づくそれを含め第二事故以降のそれとして、金一八〇万円

(四) 被告は、第一事故による傷害が軽快の方向へ向かつていた矢先に第二事故に遭遇した。右のとおり、被告はその傷害が亜急性期に入り治りかけているところにまた衝撃を受けたため、そのダメージが倍加して治療が長引いたものであるから、第二事故以降の被告の損害は原告三名が連帯して支払う義務がある。

(五) 弁護士費用

被告は、東本病院入院中の昭和六一年一〇月に甲事件を、引き続き同年一二月に乙事件を提起され、被告訴訟代理人弁護士に依頼して、応訴し、かつ反訴である丙事件の提起するのやむなきに至つたところ、右弁護士費用中、金四〇万円は第一・第二事件の損害というべきである。

(六) 既受領金

被告は原告保・同武から第一事故に基づく損害金として、金一八六万五八〇〇円(治療費七一万五八〇〇円、休業補償金一一五万円)を受領した。

(七) 以上、第二事故までの損害金残金は、金一四九万九八九三円、第二事故以降の損害金は金四六六万四二三一円となる。

よつて、原告保・同武は、各自、被告に対し、金一四九万九八九三円、原告三名は、各自、被告に対し、金四六六万四二三一円の損害賠償債務を負つているから、原告らの甲事件及び乙事件の請求は理由がない。

四  原告ら(抗弁に対する認否)

1 甲事件原告

抗弁1、2(二)の事実は認め、その余の事実は不知。第二事故と被告の傷害との因果関係は争う。

2 乙事件原告ら

抗弁1、2(一)、4(六)の事実、4(一)の事実中、被告の昭和六一年七月三〇日までの治療費の額が金七一万五八〇〇円であることは認め、その余の事実は不知。

Ⅱ  丙事件について

一  原告(請求原因)

1 甲事件及び乙事件の抗弁1(Ⅰ・三・1)と同じ。

2 同2(一)、(二)(Ⅰ・三・2・(一)、(二))と同じ。

3 同3(一)ないし(三)(Ⅰ・三・3・(一)ないし(三))と同じ。

4 同4(一)ないし(七)(Ⅰ・三・4・(一)ないし(七))と同じ。

よつて、原告は、被告大谷保同大谷武各自に対し、金一四九万九八九三円とこれに対する第一事故発生の日である昭和六一年五月三日から支払ずみまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を、被告ら三名各自に対し、金四六六万四二三一円と内金四二六万四二三一円に対する第二事故発生の日である昭和六一年七月三〇日から、内金四〇万円に対する本判決言渡の日の翌日から各支払ずみまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。

二  請求原因に対する認否

1 被告大谷保同大谷武

甲事件乙事件の抗弁に対する認否1(Ⅰ・四・1)と同じ。

2 被告株式会社神陵文庫

甲事件乙事件の抗弁に対する認否2(Ⅰ・四・2)と同じ。

第三証拠

本件記録中の証拠目録記載のとおりであるから、これを引用する。

理由

第一甲・乙事件について

一  請求原因事実はいずれも当事者間に争いがない。

二  抗弁1(第一事故及び第二事故の発生)、同2(一)、(二)(各原告の責任原因)の各事実は当事者間に争いがない。

三  右事実によれば、甲事件原告は、第二事故に基づき発生した損害について、乙事件原告らは第一事故に基づき発生した損害について、それぞれ賠償する責任がある。

被告は、第一事故による傷害が亜急性期に入り治りかけているところに、第二事故による衝撃を受けたため、そのダメージが倍加して治療が長引いたものであるから、第二事故以降に発生した損害は原告ら三名が連帯してその責任を負うべきものであると主張するところ、被告が原告ら三名の連帯責任の根拠とすると思われる共同不法行為の成立には、両行為間に、債務の全部連帯責任を根拠づけるに足りる要件というべき、関連共同性が存在することを要するものと解するのが相当である。

これを本件について検討するに、本件においては、第一事故と第二事故との間には、なんら意思的共同も、過失行為の共同も存在しないから、両行為間に共同不法行為の成立を認めることはできないものというべきである。

もつとも、第一・第二事故による被告の負傷部位は同一であるところ、後記認定のとおり、第二事故以降に発生した損害の中には、第一事故による傷害を受けていたために、第二事故のみでは発生しなかつた傷害の程度の拡大及び治療期間の長期化並びに後遺症の程度の増大等が生じ、右事由に基づく損害拡大部分(原因競合部分)の存することが認められるが、右損害部分については、両行為の寄与度に応じて甲事件原告及び乙事件原告二名が責任を分担すべきものと解する。

四  いずれも成立に争いのない甲A第一ないし第一六号証、甲B第一、第二号証の各一、二、乙第一、第二号証、原本の存在及び成立に争いのない乙第二三号証、弁論の全趣旨により真正に成立したものと認められる甲B第三号証、証人今村一陽の証言並びに被告本人尋問の結果によれば、次の事実が認められ、右認定を覆すに足りる証拠はない。

1  被告は、昭和六一年五月三日、第一事故により、頭部外傷Ⅰ型、頸部挫傷の傷害を負い、同日東本病院で受診し治療を受け、一旦帰宅したが、帰宅後、頭痛の増強、数回の嘔吐、左手指のしびれ感の出現等の症状が現れたため、被告は医師の指示により、翌四日から同月三一日まで二八日間、同病院に入院して安静、消炎鎮痛剤の投与、頸椎牽引療法、頸椎体操等の治療を受け、その結果、軽快して退院し、その後、同年六月一日から同年七月三〇日まで(実治療日数四八日)同病院に通院して治療を受けた。

2  第二事故直前ころの被告の状態は、書類に目を通すと嘔吐感出現、右項部痛、いらいら感等の自律神経症状は残るものの、症状は当初に比べると相当程度軽快し、あと一か月ほどで治癒ないし症状固定が見込まれる状態であつた。なお、第一事故により後遺症が残るかいなかは不明であつた。

3  被告は晃晟裁断所の屋号でケミカルシユーズの裁断・加工業を営んでいたものであるが、右退院後は仕事場にはでたものの運搬等の業務につくことはできず、専ら従業員への指図をする程度であり、帳簿を作成管理するなどの業務にも支障がある状態であつたところ、第二事故当日、第一事故後始めて被害車両を運転中第二事故に遭遇した。

4  被告は、第一事故の約二か月後である昭和六一年七月三〇日、第二事故により、外傷性頸部症候群の傷害を負い、右後頭部痛、右項部痛、軽い嘔吐感、不安感を訴えて、同月三一日から同年九月六日まで(実治療日数二二日)東本病院に通院し治療を受けた。しかしながら、被告の症状は同年九月ころから嘔吐感、いらいら感、むかつき、頸部痛の憎悪がみられ、被告の妻の訴えを契機に(被告は入院を厭がり医師に対し症状をあまり訴えなかつた。)同月七日から同年一一月八日まで六三日間同病院に入院し、退院後、同月一〇日から昭和六二年一月九日まで(実治療日数二八日)同病院に通院して治療を受けた。

5  担当医師である今村一陽と、書類審査により本件につき鑑定的意見書(甲B第三号証)を提出した西元慶治医師の本件に関する次の所見はほぼ同一である。

(一) 第二事故発生前に比べ第二事故により被告の症状は憎悪している。

(二) 右症状憎悪は、第一事故と関係があるとみるべきである。

(三) 第二事故当時は、第一事故による傷害はほとんど治りかかつていたとはいえるが、完治はしていなかつたというべきであり、第二事故なかりせば治癒したであろう時期は、昭和六一年八月ころといつてよい。

(四) 本件は、事後的に考察すれば、第二事故直後に入院させたほうが良かつたのかも知れないが、諸般の事情(経過観察及び被告が入院を特に望まなかつたこと等)から外来通院を選択し、結果的に症状が軽快せず、第二事故の約一か月後に入院となつた点は妥当性を欠く処置とはいえない。

(五) 本件は、詐病とは考えられない。被告の訴える症状はやや多彩で愁訴も多いが、これは被告の性格、感受性によるものである。

6  前記今村医師は、昭和六二年六月一一日付で、被告の前記傷害は、同日、「長時間手作業を行うと右後頭部・右後頸部鈍痛、過労時には頸部運動をすると嘔吐感が出現する。右握力やや低下。右上肢に荷重がかかると右僧帽筋に牽引痛が出現する。」旨の後遺症(神経症状)を残して症状固定したとの後遺症診断書を作成している。なお、昭和六二年一月一〇日以降、被告は東本病院に通院しておらず、右傷害の実質的治療は同月九日をもつて終了している。

7  第一事故、第二事故ともに被告運転の被告車両が追突された交通事故であるところ、第一事故は、原告武が大谷車両を運転して時速約三五キロメートルの速度で走行中、たばこを取ろうとわき見したため、被告車両をその前方約六・二メートルの地点に接近して初めて危険を感じ、急制動の措置をとつたが及ばず追突した事故であつて、追突による被告車両の移動は三メートル、被告車両の損傷は右後部バンパー、ボデイ、フエンダー等凹曲破損小破、被告は事故直後から気分がわるく、事故現場から救急車で東本病院に直行しているなどかなりの強い衝撃を伴つた事故であつたのに対し、第二事故は、追突による被告車両の移動は〇・九メートル、被告車両の損傷は後部バンパー擦損、被告は事故直後はたいしたことはないと思い名刺交換しただけで別れたなど、軽微な事故であつた。

五  第一事故による第二事故までの損害 金二〇五万〇一八一円

第一事故により第二事故までの間に発生した損害については乙事件原告ら(原告保・同武)が連帯して責任を負うべきものであるから、まずその損害について検討する。

1  治療費 金七一万五八〇〇円

前認定のとおり、被告は第一事故により傷害を受け、その治療のため、昭和六一年七月三〇日までの間入・通院を余儀なくされたものであるところ、その治療費の額が金七一万五八〇〇円であることは当事者間に争いがない。

2  休業損害 金八三万四三八一円

右四1ないし3認定事実によれば、被告は、第一事故により第二事故までの間、八九日間休業を余儀なくされたものと認めるのが相当である。

休業損害額について検討するに、被告は、第一事故前の平均売上高と第一事故後の売上高の差額とその間に増員した従業員への給与相当額の合計額をもつて右休業損害に該当する旨主張するが、必ずしも立証が十分でないうえ、売上高の減少と第一事故との関連性や、売上高にしめる被告の貢献度等について明らかでないから、右被告の計算方法は採用できない。

そこで、被告は、少なくとも、賃金センサスにより求められる同年齢の労働者の平均年収三四二万一九〇〇円(昭和六一年賃金センサス・産業計・企業規模一〇ないし九九人・全労働者三五歳ないし三九歳の項による。)を下回らない収入をえていたものというべきであるから、右年収を基礎にして八九日間の休業損害を算出すると、次の計算式のとおり金八三万四三八一円(円未満切捨。以下同じ。)となる。

3421900×89÷365≒834381

3  慰謝料 金五〇万円

右四1認定事実によれば、被告は第一事故により第二事故発生までの間、二八日間の入院加療と実治療日数合計四九日間の通院加療を余儀なくされたものというべきところ、第一事故の態様、被告の傷害の部位・程度、治療経過、入・通院期間その他諸般の事情を総合考慮すると、第二事故発生までの間の被告の第一事故による精神的苦痛を慰謝すべき慰謝料としては、金五〇万円をもつて相当であると認める。

六  第二事故発生以降の損害 金三八九万一三五六円

1  治療費 金一五四万四四七五円

被告は、前認定のとおり、第一事故及び第一事故と第二事故の原因競合により傷害を受け、昭和六一年七月三一日から昭和六二年一月九日までの間入・通院を余儀なくされたものであるところ、原本の存在及び成立に争いのない乙第二四号証の一、二によれば、右期間の治療費の額は金一五四万四四七五円であることが認められ、右認定に反する証拠はない。

2  休業損害 金九四万六八八一円

前記四4認定事実によれば、第二事故発生以降昭和六一年一一月八日までの一〇一日間、被告は第二事故及び第一事故と第二事故の原因競合により休業を余儀なくされたものと認めるのが相当である。

そこで、前認定の被告の収入を基礎に、右一〇一日間の休業損害を算出すると、次の計算式のとおり、金九四万六八八一円となる。

3,421,900×101÷365≒946,881

3  入・通院慰謝料 金八〇万円

前記四4認定のとおり、被告は、第二事故及び第一事故と第二事故の原因競合により、外傷性頸部症候群の傷害を負い六三日間の入院加療と、実治療日数五〇日の通院加療を余儀なくされたものというべきところ、第一事故及び第二事故の態様、被告の傷害の部位・程度、治療経過、入・通院期間その他諸般の事情を勘案すると、第二事故発生後の被告の精神的苦痛(後遺症によるそれを除く。)を慰藉すべき慰謝料としては、金八〇万円をもつて相当であると認める。

4  後遺症慰謝料 金六〇万円

前記四6認定事実によれば、被告は、第一事故と第二事故の原因競合により、過労時の右後頭部痛等の神経症状(自賠法施行令別表第一四級相当)の後遺症を被つたものと認めるべきところ、第一事故及び第二事故の態様、右後遺症の部位・程度に鑑みると、右後遺症による被告の精神的苦痛を慰藉すべき慰謝料としては、金六〇万円をもつて相当であると認める。

七  寄与度による責任の分担

右のとおり、第二事故発生以降の損害は、合計金三八九万一三五六円となる。

ところで、第二事故発生以降の損害は、前記四5認定事実によれば、抽象的には、〈1〉第二事故が発生しなかつたとしても、なお、第一事故による傷害につき若干の治療の継続を要したことに基づく、専ら第一事故とのみ相当因果関係のある損害、〈2〉第一事故がなかつたとしても、第二事故のみによつて生じた、専ら第二事故とのみ相当因果関係のある損害、〈3〉第一事故と第二事故の原因競合により生じた損害で、その原因寄与度に応じて割合的に第一・第二事故加害者が責任を分担すべき損害の三種類に分類できるものというべきである。しかしながら、右〈1〉〈2〉、〈3〉の各損害を具体的に別個に認定することは、本件証拠上困難であるから、甲事件原告が責任を負うべき右〈2〉の全額及び〈3〉のうち第二事故の寄与度に応じて負担すべき損害の合計額と乙事件原告らが責任を負うべき〈1〉の全額及び〈3〉のうち第一事故の寄与度に応じて負担すべき損害の合計額について、検討する。

第一事故は第二事故に比べ格段に被告に対する衝撃力の強い追突事故であつたこと、第二事故後の被告の症状悪化は第二事故によるものではあるが、第一事故もかなりの程度影響しているものと認められること、もつとも、第二事故直前の被告の症状は前認定のとおりの状態であつて、完治はしていなかつたとはいうものの治癒ないし治療終了間近であつたこと、第二事故は第一事故の約二か月後に発生した事故であること、外傷性頸部症候群の病理等諸般の事情を総合勘案すると、第一事故の加害者である乙事件原告らが分担すべき損害部分は、右第二事故発生以降の全損害中の三〇パーセントにあたる金一一六万七四〇七円、第二事故の加害者である甲事件原告が分担すべき損害部分はその七〇パーセントにあたる金二七二万三九四九円と認めるのが相当である。

八  被告が乙事件原告らから第一事故に基づく損害金として金一八六万五八〇〇円をすでに受領していることは当事者間に争いがないから、これを右乙事件原告らの負担すべき損害金(右七認定の金一一六万七四〇七円と右五認定の金二〇五万〇一八一円の合計金三二一万七五八八円)から控除すると、金一三五万一七八八円となる。

九  被告が、本件訴訟(甲・乙・丙事件)を被告訴訟代理人弁護士に委任していることは本件記録上明らかであり、相当額の着手金・報酬を右代理人に支払うべきことは弁論の全趣旨により認められるところ、本件訴訟の内容、経過、立証の難易、丙事件の認容額等本件訴訟にあらわれた諸般の事情を総合考慮すると、第一事故と相当因果関係のある損害として乙事件原告らに請求しうる弁護士費用は金一五万円、第二事故と相当因果関係のある損害として甲事件原告に請求しうる弁護士費用は金二五万円をもつてそれぞれ相当であると認める。

一〇  以上のとおり、甲事件原告は、被告に対し、第二事故に基づく損害賠償金として、金二九七万三九四九円の債務を、乙事件原告らは、連帯して被告に対し、第一事故に基づく損害賠償金として、金一五〇万一七八八円の債務をそれぞれ負担しているから、被告の抗弁はその限りで理由がある。

第二丙事件について

甲・乙事件についての理由中に記載のとおり、丙事件被告株式会社神陵文庫は丙事件原告に対し、第二事故に基づく損害賠償金として、金二九七万三九四九円とこれに対する第二事故発生の日である昭和六一年七月三〇日から支払ずみまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払義務があり、丙事件被告大谷保・同大谷武は、連帯して、丙事件原告に対し、金一五〇万一七八八円とこれに対する第一事故発生の日である昭和六一年五月三日から支払ずみまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払義務がある。

第三結論

よつて、甲事件原告の甲事件の請求は、第二事故による甲事件原告の甲事件被告に対する損害賠償債務は金二九七万三九四九円を超えては存在しないことの確認を求める限度で、乙事件原告らの乙事件の請求は、第一事故による乙事件原告ら各自の乙事件被告に対する損害賠償債務は金一五〇万一七八八円を超えては存在しないことの確認を求める限度で、丙事件原告の丙事件の請求は、丙事件被告株式会社神陵文庫に対し、金二九七万三九四九円とこれに対する昭和六一年七月三〇日から支払ずみまで年五分の割合による金員の支払を求める限度で、丙事件被告大谷保・同大谷武各自に対し、金一五〇万一七八八円とこれに対する昭和六一年五月三日から支払ずみまで年五分の割合による金員の支払を求める限度でそれぞれ理由があるから、これをそれぞれ認容し、その余の甲事件、乙事件及び丙事件の各請求はそれぞれ理由がないから、これをそれぞれ棄却し、訴訟費用の負担につき、民事訴訟法九三条、九二条、八九条を、仮執行宣言につき、同法一九六条を各適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 杉森研二)

第一事故目録

一 発生日時 昭和六一年五月三日午後零時三五分ころ

二 発生場所 神戸市長田区二葉町八丁目一番七号先路上

三 加害車両 普通乗用自動車(神戸五五ふ五三二二。以下「大谷車両」という。)

右保有者原告大谷保(以下「原告保」という。)

右運転者原告大谷武(以下「原告武」という。)

四 被害車両 普通乗用自動車(神戸五九そ四六六〇。以下「被告車両」という。)

右運転者被告

五 事故態様 加害車両が被害車両に追突した。

第二事故目録

一 発生日時 昭和六一年七月三〇日午後一時三〇分ころ

二 発生場所 神戸市長田区駒ケ林町五丁目九番一三号市道高松線路上

三 加害車両 普通貨物自動車(神戸四〇こ六七六六。以下「大川車両」という。)

右運転者訴外大川雅博(以下「大川」という。)

四 被害車両 被告車両

右運転者被告

五 事故態様 加害車両が被害車両に追突した。

事故前4ケ月間の売上

〈省略〉

休業損害明細書

〈省略〉

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